国際離婚で最も大きなトラブルになりやすいのが、子どもの連れ去り問題です。ここでは、子供の人権と利益を守るためのハーグ条約のポイントや、日本と海外の視点の違いについて説明していきます。
ハーグ条約に基づき勝手に子供を連れて離婚しない
国際離婚にいたった場合、真っ先にハーグ条約について理解し違反となる行為を行わないように注意しましょう。
ハーグ条約とは子どもの人権や利益を守るための取り決めで、日本も2014年4月1日をもって締結にいたりました。外務省では、ハーグ条約の成り立ちについて以下のように述べています。
世界的に人の移動や国際結婚が増加したことで、1970年代頃から、一方の親による子の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題を解決する必要性があるとの認識が指摘されるようになりました。そこで、1976年、国際私法の統一を目的とする「ハーグ国際私法会議(HCCH)別ウィンドウで開く」(オランダ/1893年設立)は、この問題について検討することを決定し、1980年10月25日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」を作成しました。2019年10月現在、世界101か国がこのハーグ条約を締結しています。
※外務省ホームページより抜粋
国境を越えて子どもを連れ去ることは、子どもにとって生活環境が急変し片方の親や親族、友人と引き離され、これまでとは異なる言語文化環境に適応していかなければならないという大きな負担を強いることに繋がります。こういった悪影響から子どもを守るために、ハーグ条約では子の居住国への返還や国境を越えた面会交流について、以下のように規定しています。
- 子を元の居住国へ返還することが原則
国境を越えた子どもの連れ去りは、監護状況からいっても子どもに悪影響を及ぼします。同時に、父母のうちどちらが子どもの監護を行うかの判断は、従来居住していた国で行われるべきとしています。したがってハーグ条約では、連れ去られた子どもを元の居住国へ返還することを原則としているのです。
- 親子の面会交流の機会を確保
国境を越えてしまうと、面会交流が容易にできなくなる可能性があります。このことから、ハーグ条約締結国は、国境を越えた面会交流の支援について相互に協力し合うことになっています。
子の監護者に関する日本と海外の視点の違い
日本では、母親が子どもを監護することが非常に一般的であることから、国際離婚で子どもを連れて帰国することについてあまり問題視しない傾向がみられます。しかし、日本ではいわば当たり前となっている「子どもは母親が連れて離婚する」ことについて、海外諸国の視点は大きく異なっているのです。
もし、日本人の母親が子どもを連れて日本へ帰国した場合、海外諸国としては「無断で子どもを連れ去った」とみなす傾向が非常に強いといえます。すでに当該国で家庭を築き、子どもがそこでの生活に順応している事実がありながら、離婚に伴い子どもを連れて日本に帰ることは大きな問題だと考えるのです。
父親がDVを行うため逃れるために母子で日本に帰国するような場合を除き、「離婚は夫婦の問題であり、子どもの所在などについては別途協議が行われるべき」というのが諸外国の考え方です。日本のハーグ条約締結以降、国際離婚する日本人にはハーグ条約への理解が強く求められるようになり、また徐々に浸透していくようになったのです。
まとめ
夫婦の離婚は夫婦の問題であり、子どもをどちらの親が引き取るかはまったく別の問題である、という視点で考えることが大切です。従来から定着している、「幼い子どもの養育には母親の存在が重要」という日本的な考え方は、決して諸外国と共通しているわけではないため、まずはハーグ条約についてよく理解したうえで、子どもの処遇について慎重に協議を進めることが重要になってきます。
国際離婚を考えている場合は、ぜひ積極的に法律の専門家に相談し、ハーグ条約のことや相手国の法律や慣習などについて理解を深め、最善の策をとるようにしましょう。