外国人が日本で会社を設立して事業を行う場合にどのような点に注意する必要があるのでしょうか。

外国人による会社設立

外国人が日本で会社を設立する場合、基本的な手続きは日本人が会社を設立する場合と異なりません。会社の代表となる外国人が海外にいる場合でも、日本で会社を設立することが認められています。ただし、次のような点に注意する必要があります。

1 外国人が会社を経営できる在留資格には制限がある。

2 実印をもたない場合は、印鑑証明書の代わりに署名証明書を提出する必要がある。

3 外国の会社の日本支店を設立する場合は、宣誓供述書を提出する必要がある。

4 申請で提出する書類のうち外国語で作成された書類がある場合は、日本語訳を付ける必要がある。

5 出資金を払い込むため、日本国内の銀行口座または日本の銀行の海外支店の口座が必要となる。

会社設立と在留資格

外国人が日本で会社を設立する場合は、どのような在留資格で在留するかが重要になります。

外国人が、居住資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)の在留資格を付与されている場合は、原則として活動に制限がないため、日本で会社を設立して経営することができます。

外国人が、海外にいて在留資格がない場合は、設立した会社を経営するために、経営・管理の在留資格を取得する必要があります。

外国人が、活動資格の在留資格を付与されている場合、就労可能な活動資格は、雇用されて就労することを、就労不可能な活動資格は、教育を受ける、家族と会うなどを目的とした在留資格であり、会社を経営することは認められません。この場合も経営・管理の在留資格を取得する必要があります。

起業準備と在留資格

在留資格がない外国人、または留学の在留資格をもつ外国人が、起業を準備する場合は、次のような在留資格を取得することが考えられます。

1 外国人起業活動促進事業制度の対象となる産業分野で起業を準備する場合は、特定活動(外国人起業家)の在留資格の対象となります。

2 卒業した大学のランクなど一定の要件を満たす外国人が起業を準備する場合は、特定活動(未来創造人材外国人)の在留資格の対象となります。

3 留学の在留資格をもつ大学生、大学院生などが、大学、大学院などを卒業・修了した後に起業して、経営・管理の在留資格への変更が見込まれる場合は、特定活動(留学生が大学等を卒業した後に起業活動を行うための滞在)の在留資格の対象となります。

4 留学の在留資格をもつ大学生、大学院生などが、優秀な留学生の受入れに意欲的に取り組んでいる大学、大学院などを卒業・修了した後に起業して、経営・管理の在留資格への変更が見込まれる場合は、特定活動(留学生が優秀な留学生の受入れに意欲的に取り組んでいる大学等を卒業した後に起業活動を行うための滞在)の在留資格の対象となります。

日本で設立する会社の形態

外国人が日本で事業を行う場合、①新しい会社を日本で設立する、または②既に存在する外国の会社の子会社を日本で設立する(日本法人の設立)、③既に存在する外国の会社の支店を日本に設置する(日本支店の設置)方法があります。

日本法人は、外国の会社の子会社であっても別の法人格を持ちます。そのため、日本法人の活動によって生じた権利義務は、外国の会社ではなく日本法人に帰属し、会計処理は日本法人だけで完結します。外国の会社は子会社に対する出資者としての責任のみを負います。日本法人を設立する場合は、最低1名の日本に居住している「日本における代表者」が必要となります。

日本支店は、外国の会社の一部であり、別の法人格を持ちません。そのため、日本支店の活動によって生じた権利義務は、外国の会社に帰属し、会計処理は外国の会社と合算して処理できます。しかし、日本支店には資本金が存在しないため、旅行業や建設業など一定の資本金が要件となる場合許可・認可を取得できません

日本法人または日本支店いずれの場合でも、その名義で銀行口座を開設したり、不動産を借りたりすることができます。ただし、日本法人と比べて日本支店は信用力が低いため、金融機関からの借り入れでは不利になります。

営業所の設置

外国の会社が日本支店を設置する場合は、必ずしも営業所を設置する必要はありません。ただし、外国人が経営・管理の在留資格を取得して査証申請を行う場合は、営業所が設置されていることが必要となるため、通常は日本支店の設置と併せて営業所を設置します。

会社設立の流れ

外国人が日本の会社を設立する場合は、次のような流れで行います。

1 発起人は、会社の種類、商号、事業の目的、本店所在地、資本金の額などの会社の概要を決定します。

2 定款を作成して、公証人の認証を受けます。

持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)の場合は認証を受ける必要はありません。

3 発起人が定めた金融機関の口座に出資金を払い込みます。

4 設立登記申請を行います(日本支店を設置する場合は、支店設置登記申請を行います)。

5 税金や保険などの届出・手続を行います。事業に必要となる許可・認可を取得します。

6 事業開始の準備をします。

7 従業員を募集します。

8 在留資格がない場合は、経営・管理の在留資格認定証明書交付申請、他の在留資格で在留している場合は、在留資格変更許可申請を行います。

9 外国人が海外にいる場合は、査証申請を行います。

10 上陸許可を受けて、日本に入国します。

事業計画書

事業計画書は、経営理念、事業概要、収支計画などを説明する文書です。会社の設立では事業計画書を作成する必要はありません。しかし、経営・管理の在留資格を取得する場合は、申請書と共に事業計画書を提出する必要があります。そのため、会社を設立する際に、事業計画書を作成しておくことが大切です。

一般的に事業計画書には、次のような内容を記載します。

1 会社の基本的な情報

2 経営者のプロフィール

経営者がどのような人物か、経歴や人柄などを詳しく説明します。

3 経営理念、目的、ビジョン

なぜ事業を行うのか、事業を通じてどのような未来を実現したいのか詳しく説明します。

4 事業概要・ビジネスモデル(仕入計画、販売計画、設備計画など)

商品・サービスの提供により、どのように収益を上げるのか具体的に説明します。

5 事業(商品・サービス)の強みと特徴

提供する商品・サービスについて、競合他社との違い、独自性を具体的に説明します。

6 市場環境(市場の規模や需要)と競合他社の状況

7 仕入先、販売先など

8 収支計画・損益計画(1~3年間の売上、経費、利益などの見込み)

9 資金調達計画

署名証明書

署名証明書(サイン証明書)は、申請者の署名が申請者本人のものであることを証明するための文書です。外国人が実印を持たず、印鑑証明書を提出できない場合は、その代わりとして署名証明書の提出が必要になります(法務省「外国人・海外居住者の方の商業・法人登記の手続について」)。

署名証明書は、原則として①外国人の本国の官憲(行政機関)または公証人、②日本にある本国の官憲(大使・領事)、③第三国にある本国の官憲(大使・領事)が作成する必要があります。ただし、本国に署名証明の制度がない、日本からは署名証明書を取得できない、日本に署名証明を行う本国の官憲がいないなど、やむを得ない理由がある場合は、④日本の公証人、⑤居住国の公証人、⑥居住国の官憲(行政機関)が作成することが認められます。

宣誓供述書

宣誓供述書は、宣誓供述書に記載した内容を本人が供述したことを証明するための文書です。外国人が外国の会社の日本支店を設置する場合は、宣誓供述書の提出が必要になります。宣誓供述書は、①外国人の本国の公証人、②日本にある本国の官憲(大使・領事)が作成できます。ただし、国によっては本国の公証人以外では宣誓供述書を作成できない場合があります。

外国語の文書の提出

会社の設立において、外国の会社の株主総会議事録や取締役会議事録など、外国語で作成された文書を提出する場合は、原則として日本語訳を併せて提出する必要があります(法務省「商業登記の申請書に添付される外国語で作成された書面の翻訳について」)。

出資金の払い込み

出資金を払い込む口座は、日本または外国の銀行の日本国内本支店の口座日本の銀行の海外支店の口座のいずれかである必要があります。外国の銀行の海外本支店の口座に振り込むことは認められません

外国人が日本の銀行の口座を開設するには、在留カードが必要となります。外国人が日本に在留していない場合や日本の銀行の口座を開設していない場合は、日本に居住する発起人、または日本に居住する発起人がいない場合は出資金の受領権限を与えられた第三者が、日本国内本支店の口座を開設する必要があります。

まとめ

外国人が日本の会社を設立する場合、基本的な手続きは日本人が会社を設立する場合と異なりませんが、署名証明書・宣誓供述書の提出や出資金の払込用の口座開設など注意しなければならない点があります。定款を作成し、設立登記により会社が設立された後、外国人は会社の経営を行うために必要となる経営・管理の在留資格を取得します。経営・管理の在留資格は、会社を設立できれば取得できるというものではなく、事業を安定して継続できることが必要になります。そのため、会社を設立する段階から事業計画書を作成して、事業内容や収益の見込みについて十分に説明できるようにしておくことが必要です。当事務所では、外国人による会社の設立や在留資格の取得を代行するお手伝いをしていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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