外国人の雇用に対する補助金・助成金には、どのようなものがあるのでしょうか。また、補助金・助成金を受けるにはどうすればよいでしょうか。

外国人の雇用に対する補助金・助成金

外国人を雇用する場合は、外国人が就労しやすい労働環境の整備や生活の支援、外国人に知識・技能を習得させるための訓練などに費用がかかります。補助金・助成金を受けることで、こうした外国人の雇用に関わる費用負担を軽減することができます。

外国人の雇用に関わる補助金・助成金には、次のようなものがあります。これらの補助金・助成金の他にも国または地方公共団体が行っている様々な支援策が存在します。

1 トライアル雇用助成金

2 人材確保等支援助成金

3 人材開発支援助成金

4 キャリアアップ助成金

5 雇用調整助成金

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、事業主に対する厚生労働省の助成金です(厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」)。事業主が職業経験、技能、知識等の不足から安定的な就職が困難な求職者を原則として3か月間試行雇用した場合に助成金が支給されます。通常は月額最大4万円、求職者が母子家庭の母または父子家庭の父の場合は月額最大5万円の助成金が支給されます。試行雇用により求職者の適性や能力を確認して、求職者と求人者の相互理解を促進することで、早期就職を実現し雇用機会を作り出すことを目的としています。

助成金申請の流れ

1 事業主は、外国人と雇用契約を結び、試行雇用(トライアル雇用)を開始します。

2 雇用の開始日から2週間以内トライアル雇用実施計画書をハローワークまたは都道府県労働局に提出します。

3 3か月の施行雇用期間の経過後、外国人と無期雇用契約を結びます。

4 無期雇用の開始日から2か月以内結果報告書兼支給申請書をハローワークまたは都道府県労働局に提出します。

5 助成金が支給されます。

人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)は、事業主に対する厚生労働省の助成金です(厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」)。事業主が外国人特有の事情に配慮して社内規定の多言語化や苦情・相談体制など就労環境の整備(就労環境整備措置)を行い、外国人労働者の職場定着に取り組んだ場合に経費の一部に対して助成金が支給されます。通常は57万円を上限として支給対象経費の2分の1、賃金要件を満たす場合は72万円を上限として支給対象経費の3分の2の額の助成金が支給されます。外国人の就労環境を整備して日本の労働法制や雇用慣行に適応できるようにすることで、労働条件や解雇に関わるトラブルを防止することを目的としています。

支給対象経費

就労環境の整備に要する次の経費が助成金の支給対象となります。

1 外部の機関または専門家(外部機関等)に通訳を委託する費用(通訳費

2 雇用労務責任者と外国人労働者の面談に必要となる翻訳機器を購入する費用(翻訳機器導入費、10万円が上限)

3 社内規定、社内マニュアル、標識類などを多言語化するため外部機関等に翻訳を委託する費用(翻訳料

4 外国人労働者の就労環境整備措置を弁護士、社会保険労務士等に委託する費用(弁護士、社会保険労務士等への委託料、顧問料等は含まない)

5 多言語化された社内の標識類の設置・改修を外部機関等に委託する費用(社内標識類の設置・改修費

助成金申請の流れ

1 外国人を雇用して外国人雇用状況届出書をハローワークに提出します。

2 就労環境整備措置を最初に導入する月から6か月~1か月前までに就労環境整備計画書を都道府県労働局に提出します。

3 3か月以上、1年以内の計画期間で就労環境整備措置を導入・実施します。

4 計画期間の終了から1年間の算定期間が終了した後、2か月以内支給申請書を都道府県労働局に提出します。

5 助成金が支給されます。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金(人材育成支援コース)は、事業主に対する厚生労働省の助成金です(厚生労働省「人材開発支援助成金」)。事業主が人材育成に必要な訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部に対して助成金が支給されます。

支給対象訓練

次の訓練が助成金の支給対象となります。

1 職務に関連した知識・技能を習得させるための10時間以上のOFF-JT(人材育成訓練

2 中核人材を育てるために実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練(認定実習併用職業訓練

3 有期・無機契約労働者の正社員転換を目的として実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練(有期実習型訓練

OFF-JTは、企業の事業活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる訓練、OJTは、適格な指導者の指導の下、企業内の事業活動の中で行われる実務を通じた訓練を指します。

支給対象経費

訓練に要する次の経費が助成金の支給対象となります。

事業内訓練(事業主が企画し主催する訓練)

1 部外の講師への謝金・手当(1時間当たり1万5千円が上限、謝金以外の日当は1日当たり3千円が上限、旅費・車代・食費は含まない)

2 部外の講師の旅費(1訓練当たり、国内招へいの場合は5万円、海外招へいの場合は15万円が上限、宿泊費は1日当たり1万5千円が上限、車代・食費は含まない、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・京都府・大阪府・兵庫県以外に所在する事業所が同道県外から講師を招へいする場合に限る)

3 施設・設備の借上費(支給対象となる訓練のみに使用するものに限る)

4 学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書・教材の購入費(教科書は頒布を目的としていて発行される出版物に限る)

5 訓練コースの開発費(訓練コースの開発の委託や訓練コースの受講に要する費用)

事業外訓練(事業主以外の者が企画し主催する訓練)

あらかじめ受講案内等で定められた入学料・受講料・教科書代等(国・都道府県から補助金を受けている施設が行う訓練の受講料、受講生の旅費等は除く)

支給額

経費の支給額

人材育成訓練の支給額

雇用保険被保険者について、中小企業事業主、事業主団体等は、経費の45%、中小企業以外の事業主は、経費の30%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ60%、45%)。

有期・無機契約労働者について、経費の60%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、75%)。

有期・無機契約労働者を正規雇用労働者等へ転換した場合、経費の70%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、100%)。

認定実習併用職業訓練の支給額

中小企業事業主、事業主団体等は、経費の45%、中小企業以外の事業主は、経費の30%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ60%、45%)。

また、OJT実施について、1人1コース当たり、中小企業事業主、事業主団体等は20万円、中小企業以外の事業主は、11万円が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ25万円、14万円)。

有期実習型訓練の支給額

有期・無機契約労働者について、経費の60%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、75%)。

有期・無機契約労働者を正規雇用労働者等へ転換した場合、経費の70%が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、100%)。

また、OJT実施について、1人1コース当たり、中小企業事業主、事業主団体等は10万円、中小企業以外の事業主は、9万円が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ13万円、12万円)。

賃金の支給額

1人1時間当たり、中小企業事業主、事業主団体等は760円、中小企業以外の事業主は、380円が支給されます(賃金要件または資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ960円、480円)。

支給限度額

経費の支給限度額

中小企業事業主、事業主団体等は、①10時間以上、100時間未満の場合15万円、②100時間以上、200時間未満の場合30万円、200時間以上の場合50万円が上限となります。

中小企業以外の事業主は、①10時間以上、100時間未満の場合10万円、②100時間以上、200時間未満の場合20万円、200時間以上の場合30万円が上限となります。

賃金の支給限度額

1人1訓練当たり1200時間、専門実践教育訓練は1600時間が上限となります。

支給制限

支給対象となる訓練等の受講回数は、1人当たり1年度で3回が上限となります。

支給額は1事業所または1事業主団体等当たり1年度で1000万円が上限となります。

助成金申請の流れ

1 計画の作成・実施や相談・指導を行う職業能力開発推進者を選任します。

2 人材育成の基本方針などを定める事業内職業能力開発計画書を作成します。

3 訓練の必要性の有無を確認するため、ジョブ・カード作成アドバイザー等による面接(キャリアコンサルティング)を実施します。外国人を新たに雇用する場合は、事業内職業能力開発計画を提出した後、すでに雇用している場合は提出する前に実施します。

ジョブ・カード作成アドバイザー等には、ジョブ・カード作成アドバイザー、キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士(1級または2級)、職業訓練指導員が当たります。

4 訓練開始日から30日前までに事業内職業能力開発計画書を都道府県労働局に提出します。

5 訓練を実施します。

訓練に要した経費は、支給申請書の提出までに支払いを終える必要があります。

6 訓練対象者の評価を実施します。

7 訓練の終了から2か月以内支給申請書を都道府県労働局に提出します。

8 助成金が支給されます。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、事業主に対する厚生労働省の助成金です(厚生労働省「キャリアアップ助成金」)。事業主が非正規雇用労働者の正社員化処遇改善の取組を実施した場合に助成金が支給されます。有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップ促進を目的としています。

支給額

1 正社員化 28万5千円~57万円

正社員へ転換、または派遣労働者を直接雇用する、かつ転換、直接雇用後の固定賃金が3%以上増額する必要があります。

2 障がいを持つ従業員の正社員化等 45万円~120万円

正社員へ転換、または正社員以外の身分の無期雇用労働者へ転換する必要があります。

3 基本給の賃上げ 5万円~6万5千円

賃金規定を増額改定し、3%以上賃上げする必要があります。

4 賃金規定を共通にする 60万円

正規、非正規に適用している賃金規定を共通化する必要があります。

5 賞与・退職金の導入 40万円

継続的な賞与・退職金制度を導入する必要があります。

6 社会保険の適用 5万8千円~23万7千円

労働時間の延長によって社会保険に適用させる必要があります。

1~3、6は、対象者1人あたりの支給額です。また、大企業は4分の3の支給額となります。

助成金申請の流れ

1 外国人を6か月の期間で雇用します。

2 キャリアアップ計画書を都道府県労働局に提出します。

3 外国人を6か月の期間で継続雇用します。

4 正社員化、賃上げ等の取り組みを実施します。

5 6か月分の賃金を支給した日から2か月以内支給申請書を都道府県労働局に提出します。

6 助成金が支給されます。

雇用調整助成金

雇用調整助成金は、事業主に対する厚生労働省の助成金です(厚生労働省「雇用調整助成金」)。景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための一時的な雇用調整(休業、教育訓練、出向)に要した費用に対して助成金が支給されます。

支給額

1 休業を実施した場合の休業手当、教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額につき、中小企業は3分の2、中小企業以外は2分の1

対象者1人当たり8490円が上限となります。

2 教育訓練を実施した場合は、1人1日当たり1200円が加算されます。

支給制限

休業・教育訓練の場合は、1年当たり100日、3年当たり150日が上限となります。出向の場合は、1年が上限となります。

助成金申請の流れ

1 雇用調整の2週間前までに雇用調整助成金休業等実施計画届をハローワークまたは都道府県労働局に提出します。

2 雇用調整を実施します。

3 雇用調整助成金支給申請書をハローワークまたは都道府県労働局に提出します。

4 助成金が支給されます。

補助金と助成金の違い

補助金と助成金についての法律上の明確な定義はありません。一般的には、特定の事務や事業を補助するために国・地方公共団体などが交付・支給する金銭のうち、審査があるものは補助金審査がないものは助成金と呼ばれますが、明確には区別されていません。

一般的には、補助金は事業を実施した後に交付されるため、事業を実施している間の資金は事業主が準備する必要があります。また、補助金・助成金は申請しても直ちに交付・支給されるわけではなく、交付・支給されるまで一定の期間がかかることに注意する必要があります。補助金・助成金は事業の実施期間が定められ、その間に実施した事業に対して金銭が交付・支給されることが一般的です。実施期間を外れて実施される事業は補助金・交付金の対象とならない場合があるため注意が必要です。

まとめ

外国人を雇用する場合は、各種補助金・助成金を申請することにより、外国人の雇用、環境整備、訓練などにかかる費用負担を軽減することができます。補助金・助成金の申請には、様々な手続や書類が必要となるため、申請を考えている場合は、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、外国人を雇用するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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