外国人を雇用して業務に従事させる場合にどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。外国人を雇用するメリットと注意点について解説します。

外国人雇用の傾向

近年、日本で就労する外国人の数は増加傾向にあり、外国人雇用状況の届出は、令和4年10月には過去最高の約182万人となっています(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和4年10月)」)。

国・地域別では、ベトナム(約46万2千人、外国人雇用全体の25.4%)、中国(約38万6千人、21.2%)、フィリピン(約20万6千人、11.3%)、ブラジル(約13万5千人、7.4%)、ネパール(約11万8千人、6.5%)などとなっています。また、外国人の雇用が増加傾向にある国・地域としては、インドネシア(前年比47.5%の増加)、ミャンマー(37.7%)、ネパール(20.3%)などがあげられます。全体としては、アジアの国・地域の外国人が大きな割合を占めていて、特に東南アジアの国・地域の外国人が大きく増加しています。

在留資格別では、身分に基づく在留資格(約59万5千人、外国人雇用全体の32.7%)※1、専門的・技術的分野の在留資格(約48万人、26.3%)※2、技能実習(約34万3千人、18.8%)※3、特定活動(約7万3千人、4.0%)などとなっています。身分に基づく在留資格では、永住者(約35万7千人)、定住者(約12万1千人)、専門的・技術的分野の在留資格では、技術・人文知識・国際業務(約31万9千人)、特定技能(約7万9千人)などとなっています。活動資格のうち、専門的・技術的分野の在留資格、特定活動は大きく増加しているのに対して、技能実習は減少傾向にあります。

※1身分に基づく在留資格は、居住資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)を指します。

※2専門的・技術的分野の在留資格は、原則として就労可能な活動資格(教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能、技能実習と特定活動を除く)を指します。

※3技能実習は、特定技能に在留資格を変更して引き続き雇用している場合を含みます。

産業別では、外国人を雇用する事業所数の多い産業から、卸売業・小売業(事業所数全体の18.6%)、製造業(17.7%)、宿泊業・飲食サービス業(14.4%)、建設業(11.8%)、サービス業(7.9%)などとなっています。また、外国人を雇用する人数の多い産業から、製造業(外国人雇用全体の26.6%)、サービス業(16.2%)、卸売業・小売業(13.1%)、宿泊業・飲食サービス業(11.5%)、建設業(6.4%)などとなっています。

外国人を雇用するメリット

外国人雇用には、次のようなメリットがあります。

人材を確保しやすい

国内で人材を確保することが難しい業界や事業であっても、外国人を雇用することで人材を確保しやすくなります。国によっては多くの若者が仕事を探して日本に来ており、海外で働くことを選んだ就労に対する意欲の高い若い人材を確保しやすく、人材を確保しづらい中小企業でも若い人材を確保できる可能性が高くなります。また、海外の事情に通じた国際的な人材専門的な技術や知識をもつ人材を確保しやすい、働き手が不足している地方でも人材を確保しやすいというメリットもあります。

社内が活性化する

外国人を雇用することにより、日本人従業員にはない価値観や発想が持ち込まれます。日本人と外国人の従業員間でコミュニケーションが行われることにより、互いの文化や価値観を共有する機会が増え、日本人従業員の価値観が変化するなど社内が活性化されます。このような変化が起こることで、新しい商品やサービスの開発につながる可能性があります。外国人従業員とのコミュニケーションのため、日本人従業員が外国語を学び、国際化に対応する機会にもなります。これにより商品の輸出による市場の拡大、サービスの海外対応による新規顧客の開拓などにつながる可能性があります。また、外国人雇用に対応するため外国人を支援する仕組み作りを行うことは、従業員の労働環境や働き方の見直しにつながります。

事業の海外展開を進めやすい

外国人の雇用が事業の海外展開のきっかけになる場合があります。海外展開を計画している場合は、外国の情勢や文化についてよく知る外国人を計画に関わらせることで、現地の情報を収集したり計画を立てたりしやすくなります。海外展開する際には、外国人を即戦力として現地の事業に関わらせることで、現地の取引先の確保、従業員の育成、マーケティングなどを円滑に進めることが期待できます。

外国人を雇用する流れ

外国人を雇用する場合は、次のような流れで行います。

外国人が海外にいる場合

1 求人に応募してきた外国人と連絡を取り、在留資格などを確認する。

2 外国人と労働条件を交渉し、雇用契約を結ぶ。

3 在留資格認定証明書交付申請を行う。

4 必要な書類を外国人に送付し、外国人が査証申請を行う。

5 就労や生活に必要な情報を伝えるなど入国に向けた支援を行う。

6 外国人を受け入れ、支援するための仕組み作りを行う。

7 外国人が入国したら、就労や生活に必要な支援をする。

8 外国人が就労したら、必要な手続や雇用状況の届出をする。

外国人が日本に在留している場合

1 求人に応募してきた外国人と連絡を取り、在留資格などを確認する。

2 外国人と労働条件を交渉し、雇用契約を結ぶ。

3 在留資格の範囲に含まれない業務を行わせる場合は、在留資格変更許可申請を行う。

4 外国人を受け入れ、支援するための仕組み作りを行う。

5 外国人が就労したら、必要な手続や雇用状況の届出をする。

外国人を雇用する場合の注意点

外国人を雇用する場合は、次のような点に注意する必要があります。

在留資格と在留期間に注意する

外国人が日本で行うことができる活動は在留資格で決められており、在留資格で認められた範囲を超える業務を行った場合は、不法就労として刑事処罰および退去強制の対象となります。また、外国人に不法就労をさせた雇用主も不法就労助長として刑事処罰の対象となります。そのため、外国人を雇用する場合は、外国人に行わせようとしている業務が、在留資格の範囲内に含まれることを確認する必要があります。業務が在留資格の範囲内に含まれない場合は、在留資格の変更または資格外活動許可の取得が必要です。新しい在留資格または資格外活動許可を取得した場合でも、外国人に新しい在留カードが交付されるまでは業務を行わせることはできません。なお、単純労働が認められる在留資格を除いて、原則として外国人に単純労働を行わせることはできません。

就労制限の有無の確認

外国人が雇用できるか判断する場合、まず在留カードの「就労制限の有無」を確認します。

就労制限なし」の場合は、原則として外国人の就労に制限がなく、外国人を雇用することができます。

在留資格に基づく就労活動のみ可」の場合は、外国人の就労には在留資格によって異なる制限があります。この場合は、外国人に行わせる業務が在留資格で認められた範囲内に含まれるのであれば、外国人を雇用することができます。そのため在留資格にどのような制限があり、業務が認められるか確認する必要があります。

指定書により指定された就労活動のみ可」の場合は、外国人の就労には指定内容によって異なる制限があります。この場合は、外国人に行わせる業務が指定内容に含まれるのであれば、外国人を雇用することができます。そのため、指定書の内容を確認する必要があります。

就労不可」の場合は、原則として外国人は就労できません。この場合は、外国人を雇用できません。ただし、資格外活動許可がある場合は、外国人に行わせる業務が許可の範囲内に含まれるのであれば、外国人を雇用できる可能性があります。そのため、資格外活動許可の内容を確認する必要があります。

資格外活動許可の確認

資格外活動許可の内容を確認する場合、在留カードの「資格外活動許可欄」を確認します。

許可」の場合は、業務が資格外活動許可の範囲内であれば外国人を雇用することができます。

法令を遵守し、法令で定められた手続を行う

外国人を雇用する場合は、原則としてハローワークに雇用状況の届出を行う必要があります(厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」)。外国人をアルバイトとして雇用する場合でも雇用状況の届出が必要です。また、外国人を労働保険社会保険に加入させる必要があります。なお、日本と外国人の本国との間に社会保障協定がある場合は、保険料の二重負担を防止するため、社会保険への加入が免除される場合があります(日本年金機構「社会保障協定」)。2024年の時点で次の国との間で社会保障協定が発効しています。

ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア

外国人は安価な労働力ではありません。外国人を雇用する場合は、労働法令を遵守して、労働環境や賃金などで外国人に対して差別的な対応がないようにする必要があります。

コミュニケーションを確保する

外国人と日本人従業員が互いに理解不足のままでは、些細なことからトラブルに発展する可能性があります。そのため、社内で従業員間のコミュニケーションを促進して、互いの習慣や文化への理解を深めさせる必要があります。また、外国人が少ない地方の場合は、地域住民が外国人に対して偏見をもっている場合もあります。そのため、外国人を地域のイベントに参加させるなど地域住民との交流の機会を設けることで、外国人雇用に対する地域社会からの理解を得る必要があります。

外国人が日本人従業員や地域住民と円滑なコミュニケーションをとるためには、一定の日本語能力が必要となります。在留資格によっては、日本語能力が条件となっている場合もあります。日本語能力が不十分な場合は、業務の遂行に影響が出る可能性があります。そのため、外国人に行わせる業務にどの程度の日本語能力が必要となるかを確認し、外国人に求める日本語能力をあらかじめ決めておく必要があります。日本語能力を確認する場合は、JLPT、BJTなどの日本語能力を測る資格試験の評価が参考になりますが、それらはあくまでも目安として、実際の業務でコミュニケーションをとることができるかを確認する必要があります。日本語能力が不十分な場合は、生活や仕事に支障が出ないように外国人を支援する仕組みが必要となります。外国人が日本語や日本の文化を学ぶ機会を用意する、資格の取得を奨励する制度を設ける、語学学校への通学を援助する、業務において分かりやすい言葉で指示を出す、といったことが考えられます。

外国人の母国語でコミュニケーションをとる場合、外国人が日常的に話す言葉は、本国の公用語とは限らず第二言語の場合や少数言語の場合があります。どのような言語であれば外国人と十分にコミュニケーションをとれるのか確認しておく必要があります。

外国人を受け入れる側の環境を整備する

日本と外国では、生活環境や労働条件は異なります。日本人にとっては当たり前に思えることでも、外国人にとっては理解が難しい場合があります。外国人が日本の暮らしや仕事に馴染めるように、生活や就労を支援する仕組みを整備する必要があります。外国人は、日本の様々な制度に馴染みがなく、一人で手続きを行うことに苦労する場合があります。そこで、在留、税金、保険、年金、生活に関わる手続きを手助けしたり、外国人が住居を確保できるように支援する必要があります。

国によって労働の基本的なルールは異なるため、労働条件について正確に説明する必要があります。海外では給与形態が週給制や日給制が一般的な国もあるため、月給制にする場合は説明が必要です。また、給与額が手取り額ではなく額面給与を指すことも多いため、税金や社会保険料が差し引かれることを説明する必要があります。国によっては雇用契約書に記載されていない業務は行う必要がないとされている場合もあります。後から業務内容をめぐってトラブルにならないよう、行わせる業務内容をあらかじめ外国人と確認して、契約書に盛り込んでおくことも必要です。また、外国人に危険や健康障害の発生するおそれのある業務を行わせる場合は、日本人従業員に対して行う以上に十分な安全衛生教育を行うことで、外国人が労働災害に巻き込まれないようにする必要があります。

宗教、文化、習慣などの違いに配慮する

外国人の信じる宗教や本国の習慣などにより食べ物の制限、礼拝の決まり、祝祭日の時期などが異なります。また、国によっては特定の食べ物を法律で禁止している場合もあります。こうした宗教や習慣に関わる違いは、日本人と外国人従業員の相互の理解がないとトラブルの原因となります。どのような点に配慮する必要があるのか、従業員に周知させる必要があります。

仕事に対する考え方は国によって異なり、仕事よりもプライベートを優先することが普通の国もあります。また、同じ仕事を何年も続けることが少なく、数年で転職することが一般的な国もあります。そのため、外国人の仕事に対する考え方に配慮が必要です。

国によっては日本以上に家族と過ごすことを重要視している場合があります。外国人に本国の家族がいる場合は、家族を日本に呼んで滞在させたり、本国の祝祭日に合わせて帰国したりするつもりがあるか確認して、家族滞在や一時帰国を支援する仕組みを設けることが必要です。

まとめ

外国人の雇用には、人材を確保しやすい、社内が活性化する、事業の海外展開を進めやすいといったメリットがあります。しかし、外国人を雇用する場合は、在留資格と在留期間に注意し、法令を遵守し、法令で定められた手続を行う必要があります。また、外国人とのコミュニケーションを確保する、生活や就労を支援する仕組みを設ける、宗教、文化、習慣などの違いに配慮するなど、外国人を受け入れる側の環境整備も必要となります。業務内容が在留資格の範囲内に含まれるか判断する場合や、在留申請に必要となる書類を作成・収集する場合は専門的な知識が必要となるため、専門家の支援を受けることが大切です。当事務所では、外国人を雇用しようと考えている事業者をお手伝いしていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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